近傍界・遠方界・フラウンホーファ領域を理解する!
はじめに
アンテナから放射された電波は、空間中を一定の性質のまま伝搬しているわけではありません。
実際にはアンテナから離れる距離によって、電界・磁界の振る舞いが大きく変化します。
そのためアンテナ測定やレーダシステムでは、
- 近傍界(Near Field)
- フレネル領域(Fresnel Region)
- 遠方界(Far Field)
- フラウンホーファ領域(Fraunhofer Region)
という区分が用いられます。

これらを理解することで、
- アンテナ測定
- 電波暗室
- レーダ評価
- 電磁界シミュレーション
など、多くの技術分野の理解が深まります。
電波はどのように放射されるのか
アンテナに高周波電流を流すと、時間的に変化する電流が流れます。
マクスウェル方程式より、
- 時間変化する電界は磁界を発生させる
- 時間変化する磁界は電界を発生させる
という関係が成立します。
この繰り返しによって、電界と磁界がお互いを生み出しながら空間へ進んでいきます。
アンテナ近傍ではまだ電界と磁界は完全には電波として独立しておらず、アンテナの影響を強く受けています。
しかし十分離れると、自由空間を伝搬する電磁波となります。
アンテナ近傍では何が起きているのか
アンテナのすぐ近くでは、
- 電界
- 磁界
が非常に複雑な分布をしています。
ここでは
- エネルギーが空間へ飛んでいく成分
- アンテナ周囲に蓄えられる成分
が混在しています。
これを**近傍界(Near Field)**と呼びます。
近傍界では
- 電界と磁界の比が一定ではない
- 波面が大きく曲がっている
- 距離によって急激に強度が変化する
という特徴があります。
アンテナを少し動かしただけでも測定値が大きく変わる理由はここにあります。
近傍界はさらに2種類ある
実は近傍界にも種類があります。
① リアクティブ近傍界
アンテナに最も近い領域です。
ここではエネルギーは空間へ放射されるよりも、
アンテナと空間との間で往復しています。
コンデンサやコイルがエネルギーを蓄えるようなイメージです。
このため
- 電界だけが強い場所
- 磁界だけが強い場所
も存在します。
② 放射近傍界(フレネル領域)
リアクティブ近傍界より外側になると、
放射される電波が主体になります。
しかしまだ波面は球面状で、
アンテナ全体から放射された電波同士が干渉しています。
そのため
- 指向性
- 利得
などは距離によって変化します。
この領域を**フレネル領域(Fresnel Region)**と呼びます。
遠方界とは
十分アンテナから離れると、
波面はほぼ平面波になります。
この領域では
- 電界
- 磁界
の比が一定になります。
自由空間では
[
\frac{E}{H}=377\Omega
]
となります。
また
電界も磁界も
[
\frac{1}{r}
]
に比例して減衰します。
つまり距離が2倍になると、
電界強度は半分になります。
受信電力は
[
\frac{1}{r^2}
]
で減少します。
ここがレーダ方程式やフリスの伝達公式が成立する世界です。
フラウンホーファ領域とは
遠方界の中でも、
アンテナ測定で特に重要なのが
**フラウンホーファ領域(Fraunhofer Region)**です。
一般には
[
R>\frac{2D^2}{\lambda}
]
で表されます。
ここで
- (D):アンテナ開口径
- (\lambda):波長
です。
この距離を超えると
- 波面は平面波とみなせる
- 指向性が一定
- 利得が安定
- 放射パターンが変化しない
という状態になります。
そのため
アンテナ性能測定では、この距離以上離して測定する必要があります。
なぜフラウンホーファ距離が重要なのか
例えば
直径1 m
周波数10 GHz
のアンテナでは
波長は約3 cmです。
すると
[
R=\frac{2\times1^2}{0.03}
\approx67\ \mathrm{m}
]
になります。
つまり約70 m離れないと
本来の放射パターンは測定できません。
大型レーダ用アンテナでは
数百メートル以上必要になることもあります。
そのため最近では
近傍界測定を行い、
数学的に遠方界へ変換する
Near Field to Far Field Transformation
という技術も広く利用されています。
各領域の比較
| 領域 | 特徴 |
|---|---|
| リアクティブ近傍界 | 電界・磁界が蓄積される |
| 放射近傍界(フレネル) | 放射は始まるが波面が球面 |
| 遠方界 | 平面波となる |
| フラウンホーファ領域 | アンテナ測定に最適な遠方界 |
レーダ技術との関係
レーダ開発では、
受信電力やアンテナ利得を評価する際、
対象がフラウンホーファ領域に存在することが前提になります。
一方で、
自動車ミリ波レーダや近接センサなどでは、
対象物が近傍界に存在する場合もあり、
遠方界理論だけでは誤差が生じます。
そのため最近では
近傍界補正
近傍界イメージング
Near Field Radar
などの研究も盛んに行われています。
まとめ
アンテナから放射された電波は、距離によって性質が大きく変化します。
アンテナ直近では電界・磁界が複雑に分布する近傍界となり、さらに離れると波面が徐々に整うフレネル領域を経て、十分離れた位置では平面波として扱える遠方界になります。アンテナ性能を正確に評価できるフラウンホーファ領域は、その遠方界の中でも特に重要な領域です。
これらの区分を理解することは、アンテナ設計だけでなく、レーダ、無線通信、EMC評価、電波暗室試験など、電波工学全般を学ぶうえで欠かせない基礎知識と言えるでしょう。


コメント