マイクロ波やUHF帯以上の電波は、光と同じように直進性が強いという特徴があります。そのため、通常は送信アンテナと受信アンテナの間に見通し(Line of Sight:LOS)が確保されていなければ通信できません。
しかし、実際の大気中では温度や湿度、気圧の変化によって電波の進み方が変化し、地平線の先まで電波が届くことがあります。
代表的な現象がラジオダクト波と対流圏散乱波です。どちらも対流圏で発生する長距離伝搬現象ですが、電波が遠くまで届く仕組みはまったく異なります。
この記事では、それぞれの特徴や違いについて解説します。
通常の電波伝搬
まずは通常の電波伝搬を確認しましょう。
アンテナから放射された電波は、自由空間中をほぼ直進します。
そのため、地球の曲率によって一定距離以上では電波は地表から離れ、送信局と受信局がお互いに見えなくなると通信は困難になります。
この距離を見通し距離(LOS:Line of Sight)と呼びます。
しかし、大気の状態が変化すると、この見通し距離を超えて通信できる場合があります。
ラジオダクト波とは
ラジオダクト波とは、大気中に形成された温度逆転層によって電波が閉じ込められ、通常よりも遠方まで伝搬する現象です。
通常は高度が高くなるほど気温は低くなりますが、海上や晴天時の早朝などでは、地表付近よりも上空の方が暖かくなる温度逆転層が形成されることがあります。
この層では空気の屈折率が急激に変化するため、電波は上空へ抜けず、海面と温度逆転層の間を何度も屈折しながら伝搬します。
ラジオダクト波の模式図
図のように、電波は海面と温度逆転層の間を導波管のように伝搬します。
このため、本来は見通し外となる数百 km先まで通信できる場合があります。
ラジオダクト波の特徴
- 温度逆転層が形成されたときに発生
- 海上や沿岸部で発生しやすい
- 数百 km以上伝搬することもある
- マイクロ波帯で発生しやすい
- レーダでは通常より遠方の目標を探知する原因になる
対流圏散乱波とは
対流圏散乱波とは、対流圏中の空気密度や水蒸気のゆらぎによって散乱した電波を利用する通信方式です。
ラジオダクト波のように電波を閉じ込めるのではなく、大気中で散乱したごく一部の電波を受信します。
送信局と受信局は、お互いが見えない位置に設置されますが、両者とも対流圏中の同じ散乱領域へアンテナを向けることで通信を行います。
対流圏散乱波の模式図
図のように、送信された電波の一部が対流圏で散乱され、その散乱波を遠方の受信局が受信しています。
散乱によって受信できる電波は非常に弱いため、
- 高出力送信機
- 高利得アンテナ
- 高感度受信機
が必要になります。
対流圏散乱波の特徴
- 対流圏中の空気のゆらぎを利用する
- 約100~500 km程度の通信が可能
- 大出力送信機が必要
- 衛星通信以前の長距離通信で利用された
ラジオダクト波と対流圏散乱波の違い
| 比較項目 | ラジオダクト波 | 対流圏散乱波 |
|---|---|---|
| 伝搬原理 | 温度逆転層による屈折 | 大気中の散乱 |
| 電波の進み方 | ダクト層に閉じ込められる | 散乱した電波を利用 |
| 発生条件 | 温度逆転層が必要 | 大気のゆらぎがあれば発生 |
| 主な発生場所 | 海上・沿岸部 | 対流圏全体 |
| 通信距離 | 数百 km以上 | 約100~500 km |
| 受信電力 | 比較的強い | 非常に弱い |
| 代表的用途 | 海上通信・レーダ | 軍事通信・長距離通信 |
レーダシステムとの関係
レーダでは、これらの現象が探知性能に大きな影響を与えることがあります。
ラジオダクトが発生すると、本来は地平線の先にある船舶や航空機からの反射波を受信できることがあり、通常よりも遠距離の探知が可能になります。一方で、想定外の目標や海面反射を受信してしまい、誤探知やクラッタの増加につながる場合もあります。
対流圏散乱波はレーダで積極的に利用されることは少ないものの、大気の状態によって受信信号の変動やフェージングの要因となることがあります。
まとめ
ラジオダクト波と対流圏散乱波は、どちらも見通し距離を超えた長距離通信を可能にする電波伝搬現象ですが、その仕組みは大きく異なります。
ラジオダクト波は温度逆転層によって電波が閉じ込められる現象であり、海上通信やレーダに大きな影響を与えます。一方、対流圏散乱波は対流圏中の空気のゆらぎによる散乱を利用した通信方式で、衛星通信が普及する以前には長距離通信回線として利用されていました。
これらの伝搬現象を理解することで、電波が必ずしも「真っ直ぐ進むだけではない」ことや、気象条件が無線通信やレーダ性能に大きく影響する理由を理解しやすくなります。


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