MIMO レーダの作り方 ①MIMOレーダとは

レーダ技術の基礎

MIMOレーダの作り方 では、2×2のMIMOレーダを1.0GHzで作成するという一連の流れをわかりやすく記載します。

全10個の記事でMIMOレーダを作ります。

タイトル内容
MIMOレーダの作り方(前編)MIMOとは何か、システム全体構成
MIMOレーダの作り方(中編)送受信アンテナ配置、仮想アレイ、ハードウェア構成、同期方法
MIMOレーダの作り方(後編)ADC、FPGA、DSP、CPU、GUIまで含めたシステム構成
MIMOレーダ 送信信号の作り方(前編)FMCW、チャープ信号、送信タイミング、TDM・FDM・CDM
MIMOレーダ 送信信号の作り方(後編)送信波形設計、相互相関、位相制御、送信シーケンス
MIMOレーダ 受信信号の処理IF信号、ADC、Range FFT、Doppler FFT、Angle FFT、CFAR前まで
MIMOレーダ クラッタ除去とCFARMTI、MTD、クラッタ除去、CFAR、しきい値設定
MIMOレーダ ノイズと目標判定熱雑音、量子化雑音、ゴースト、マルチパス、目標判定、トラッキング
MIMOレーダ 表示処理(GUI)Range-Doppler Map、Range-Angle Map、Point Cloud、Track表示
MIMOレーダ 実装と故障診断必要なハードウェア、異常情報、BIT、自己診断、ログ、保守



MIMOレーダを作成している学生、研究者、技術者の皆様に刺さる内容になれば良いなと思いつつ、、

では、どうぞ。

本記事はMIMO初学者向けなので分かる方は作成する記事まで飛んで下さい。

MIMOとは何か、SISO・SIMO・MISOとの違い、仮想アレイ、角度分解能が向上する理由について記載します。

① MIMOレーダとは

はじめに

現在、自動車の衝突防止システムや自動運転、航空レーダ、気象レーダ、監視レーダなど、多くの分野でMIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダが利用されています。

従来のレーダは「目標物までの距離を測定する装置」というイメージが一般的でした。しかし近年のレーダは、

  • 距離
  • 速度
  • 方位角
  • 仰角
  • 反射強度(RCS)
  • 目標数

などを同時に推定できるようになっています。

さらに、自動車用ミリ波レーダでは歩行者・自転車・自動車などを区別し、周囲の環境を三次元的に認識することも可能になっています。

これらを実現している重要な技術の一つがMIMOレーダです。

本シリーズでは、実際に**2×2 MIMOレーダ(送信2素子・受信2素子)**を設計することを想定しながら、システム構成から信号処理までを順番に解説していきます。

本記事(第1回)では、MIMOレーダの基本的な考え方と、従来レーダとの違いについて説明します。


レーダで取得できる情報

一般的なレーダでは主に次の情報を取得します。

  • 距離
  • 速度
  • 方位角
  • 仰角
  • RCS(Radar Cross Section)

距離は電波が往復する時間から求められます。

速度はドップラー効果による周波数変化から算出されます。

さらに複数のアンテナを利用することで、目標物がどの方向に存在するかも推定できます。

つまり現在のレーダは、

「何メートル先にある」

だけではなく、

「何度方向にあり」

「どれくらいの速度で移動しているか」

まで分かるようになっています。


なぜMIMOレーダが必要になったのか

昔のレーダでは、

送信アンテナ1本

受信アンテナ1本

という構成が一般的でした。

Tx
│

電波

↓

目標

↓

Rx

この方式でも

  • 距離
  • 速度

は求められます。

しかし問題があります。

方向が分かりにくいのです。

例えば、

前方50 mに

  • 車A
  • 車B

が並んでいた場合、

距離だけでは2台を区別できません。

また、速度も同じなら、

ほぼ同じ反射波として観測されます。

つまり、

「前方50 m」

までは分かっても、

左右どちらにいるか

までは正確に分からない場合があります。

そこで考えられたのが、

**複数アンテナによる到来方向推定(DOA:Direction of Arrival)**です。


アンテナを増やすと何が変わるのか

ここで一つ考えてみます。

受信アンテナを2本設置するとどうなるでしょうか。

Rx1

   目標

Rx2

目標から飛んできた電波は、

Rx1とRx2へ到達する時間がほんのわずかだけ異なります。

例えば、

Rx1へ先に届き、

Rx2へ少し遅れて届いたとします。

この時間差(位相差)を利用すると、

目標物が

  • 左側
  • 正面
  • 右側

のどこに存在するか推定できます。

これが角度推定の基本原理です。

ただし、

アンテナが2本だけでは、

まだ十分な角度分解能は得られません。

もっと細かく角度を測定したい場合は、

アンテナをさらに増やす必要があります。

しかしアンテナを増やせば、

当然、

  • コスト
  • サイズ
  • 消費電力

も増加してしまいます。

この問題を解決する技術が、

MIMOレーダです。

下の絵のように複数のアンテナを使用することで開口面積を確保しつつ、フェーズドアレイレーダのようにアンテナを物理的に動かすこと無く捜索, 索敵が出来るようになります。


MIMOレーダのシステム構成とは?各ブロックの役割を分かりやすく解説

MIMOレーダは、単にアンテナから電波を送受信するだけの装置ではありません。

電波を生成する回路、高周波を処理するアナログ回路、大量のデータを解析するデジタル信号処理回路、そして最終的に目標情報を表示・出力するシステムまで、多数の機能ブロックが連携して動作しています。

MIMOレーダ全体がどのようなシステム構成になっているのかを俯瞰し、各ブロックがどのような役割を担っているのかを解説します。


MIMOレーダ全体の流れ

まずはシステム全体の流れを見てみましょう。

MIMOレーダは大きく分けると、

  1. システム制御部
  2. 信号生成部
  3. 送信部
  4. 電波伝搬・目標物
  5. 受信部
  6. A/D変換部
  7. 受信信号処理部
  8. 結果生成・出力部

という流れで構成されています。

一見すると単純に見えますが、それぞれのブロックでは異なる役割を持ち、多数の演算や制御が同時に行われています。


0. システム制御部

システム制御部は、レーダ全体の動作を管理する司令塔です。

送信用・受信用・信号処理用の各ブロックへ設定情報を送信し、レーダ全体を同期させます。

例えば、

  • チャープ周波数
  • 掃引時間
  • TDM-MIMOの送信順序
  • ADCのサンプリング周波数
  • FFTサイズ
  • CFARのしきい値
  • GUI表示設定

など、多くのパラメータを各ブロックへ配布します。

つまり、システム制御部は直接電波を扱うわけではなく、「どのようなレーダを動作させるか」を決定する役割を担っています。


1. 信号生成部

信号生成部では、送信するFMCWチャープ信号を生成します。

一般的な車載レーダでは、PLL(Phase Locked Loop)やVCO(Voltage Controlled Oscillator)を利用して高周波信号を発生させます。

ここでは、

  • 開始周波数
  • 終了周波数
  • 掃引時間
  • 繰り返し周期

などの設定に従ってチャープ波形を作成します。

これらの設定値はシステム制御部から与えられます。


2. 送信部(Tx)

生成されたチャープ信号は送信部へ入力されます。

送信部では、

  • パワーアンプ(PA)
  • アンテナ切替回路
  • 送信アンテナ

などを経由して電波が空間へ放射されます。

TDM-MIMOでは、複数の送信アンテナを時間的に切り替えながら送信することで、それぞれの送信経路を後から識別できるようになります。


3. 電波伝搬・目標物

送信された電波は空間を伝搬し、さまざまな物体で反射します。

反射対象は車両だけではありません。

  • 航空機
  • 歩行者
  • 建物
  • ガードレール
  • 標識
  • 地面

など、あらゆる物体が反射源となります。

レーダは目標物だけを観測しているのではなく、周囲の環境全体から戻ってくる反射波を受信しています。

そのため、地面反射(グランドクラッタ)や雨・雪による反射も後段の信号処理で適切に除去する必要があります。


4. 受信部(Rx)

目標物で反射した電波は受信アンテナで受信されます。

しかし、この時点では信号は非常に微弱な高周波信号です。

そのため受信部では、

  • LNA(低雑音増幅器)
  • ミキサ
  • フィルタ
  • VGA(可変利得増幅器)

などを利用し、後段で処理しやすい中間周波数(IF信号)へ変換します。

この処理をフロントエンド処理とも呼びます。


5. A/D変換部

受信回路から出力されたIF信号はアナログ信号です。

そのままではFFTなどのデジタル信号処理を実行できないため、高速ADCによってデジタルデータへ変換します。

ここで得られたデジタルデータが、以降の信号処理の入力となります。

ADCのサンプリング周波数や分解能は、距離分解能や測定精度にも影響する重要な要素です。


6. 受信信号処理部

A/D変換されたデータはDSPやFPGAで処理されます。

ここでは、

  • Range FFT
  • Doppler FFT
  • Angle FFT
  • ビームフォーミング
  • CFAR
  • 目標追尾

など、多数の信号処理アルゴリズムが実行されます。

これらの処理によって、

「何メートル先に、何m/sで移動する目標が、何度方向に存在するか」

という情報が算出されます。


7. 結果生成・出力部

最後に、信号処理で得られた目標情報を整理し、外部へ出力します。

車載レーダでは、

  • CAN
  • Automotive Ethernet

などを通じてECUへ送信されます。

またGUIでは、

  • Range-Doppler Map
  • Point Cloud
  • Tracking結果

などが表示され、オペレータや開発者がレーダの状態を確認できます。


まとめ

MIMOレーダは、「電波を送って受ける装置」ではなく、多数の機能ブロックが連携して動作する高度なシステムです。

システム制御部が全体の設定を管理し、信号生成部でFMCWチャープ信号を作成します。その信号は送信部から空間へ放射され、目標物で反射した後、受信部・A/D変換部・受信信号処理部を経て、距離・速度・角度などの目標情報として出力されます。

次回は、本記事で紹介した各ブロックのうち、送受信アンテナの配置方法や仮想アレイ(Virtual Array)の構成について詳しく解説し、MIMOレーダが高い角度分解能を実現できる理由を説明します。

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